日本への渡海を5回にわたり試み、6回目にやっと成功した唐の高僧、鑑真はご存じであろうか。
　
　日本僧の栄叡と普照は、高僧を日本に招請するため、唐に渡り、高名だった鑑真のもとを訪れた。
　二人の要請を受けた鑑真は、渡日したい者はいないかと弟子に問いかけたが、危険を冒してまで渡日を希望する者はいなかった。そこで鑑真自ら渡日することを決意し、それを聞いた弟子21人も随行することとなった。
　
　最初の渡海企図は743年夏のことで、このときは、渡海を嫌った弟子の如海が、港の役人へ「日本僧は実は海賊だ」と偽の密告をしたため、日本僧は追放され、鑑真は留め置かれた。
　
　2回目の試みは744年1月、周到な準備の上で出航したが激しい暴風に遭い、一旦戻らざるを得なくなってしまった。
　
　3回目の出航を企てたが、鑑真の渡日を惜しむ者の密告により、栄叡が逮捕され、3回目も失敗に終わる。
　その後、栄叡は病死を装って出獄に成功し、江蘇・浙江からの出航は困難だとして、鑑真一行は福州から出発する計画を立て、福州へ向かった。
　
　4回目の試みは福州から始めた。しかし、この時も鑑真弟子の霊佑が鑑真の安否を気遣って渡航阻止を役人へ訴えた。そのため、官吏に出航を差し止めされ、4回目も失敗する。
　
　748年、栄叡が再び大明寺の鑑真を訪れた。懇願すると、鑑真は5回目の渡日を決意する。6月に出航し、舟山諸島で数ヶ月風待ちした後、11月に日本へ向かい出航したが、激しい暴風に遭い、14日間の漂流の末、遥か南方の海南島へ漂着した。
　751年、鑑真は揚州に戻るため海南島を離れた。その途上、端州の地で栄叡が死去する。動揺した鑑真は広州から天竺へ向かおうとしたが、周囲に慰留された。この揚州までの帰上の間、鑑真は南方の気候や激しい疲労などにより、両眼を失明してしまう。
　
　6回目の試みは、鑑真のもとを訪ねてきた遣唐大使の藤原清河らに渡日を約束したことから始まった。しかし、明州当局の知るところとなり、清河は鑑真の同乗を拒否した。それを聞いた遣唐副使の大伴古麻呂は清河に内密に第二船に鑑真を乗船させた。
　753年11月16日に四船が同時に出航する。第一船と第二船は12月21日に現在の沖縄本島に到着。そこで第三船はすでに前日20日に到着していた。第四船は不明。
　沖縄に到着した三船は約半月間滞在し、753年12月6日に南風を得て、三船共に沖縄を発して現在の種子島・屋久島を目指して出港する。
　しかし、出港直後に大使・藤原清河と阿倍仲麻呂の乗った第一船は岩に乗り上げ座礁、第二・三船はそのまま日本を目指した。第一船はベトナム北部に漂着し、後に唐に戻る。
　第二・三船は共に753年12月7日に屋久島に到着し、鑑真の渡日が叶った。